─2012年3月期は中期経営計画「ニューステージ21」第3次計画の最終年度でした。まず、阪口社長から見て、今回の成果をどのように総括されていますか。

ダイワボウ情報システムのITインフラ流通事業、大和紡績の繊維事業に加えて、新たにオーエム製作所がグループに加わったことで工作・自動機械も含めた中核3事業体制が整ったこともあり、おかげさまで売上高、利益ともに所期の計画目標をクリアすることができました。セグメント別で見ると、やはりITインフラ流通事業の善戦が大きかったですね。法人向けIT機器・ソフト販売を中心に、これまで追求してきた“地域密着主義”での営業展開が成果を上げています。期後半は、タイ大洪水の影響もあり商品調達では厳しい状況もありましたが、それでも目標を達成できました。
繊維事業は良かった点と残念だった点の両方があります。化合繊・機能資材部門では、節電需要などの追い風もあり、制汗関連の不織布製品などが好調でしたが、レーヨン分野は“リーマン・ショック”後の収益回復が遅れています。米国では住宅着工数がリーマン・ショック前の60%程度に止まっていることもあり、ベッドマット用途として対米輸出する防炎レーヨンが伸び悩みました。円高の逆風が極めて大きかったといわざるをえません。衣料品・生活資材事業は、クールビズの影響で機能性インナー分野などで収益が拡大しましたが、インドネシア子会社で生産するトランクスなど縫製品の対米輸出は、やはり米国経済の低迷と流通在庫増加から不振を余儀なくされました。ただ、縫製事業としては、スポーツブランドなどからの受注が好調だったことは評価できるでしょう。
産業機械事業は、工作機械の主力である立旋盤がエネルギー、航空機分野で善戦しました。ただ、中国や韓国メーカーの追い上げが激しさを増し、価格競争が激化しているという問題があります。自動包装機械はメディカル分野や食品分野などが好調でした。
グループ内の各事業間で協業が進んだことも前中計の成果です。産業機械事業と繊維事業が連携してアセアン市場での販売体制を築きつつあることなどが好例です。とはいえ、各事業の協業だけでなく、新規事業の創出や海外進出などは、まだまだ十分ではありません。例えば繊維事業の主要事業会社6社連携による開発・新規市場開拓などではスピードがまだまだ足りないというのが正直なところです。

 

─今期から新中期経営計画「イノベーション21」がスタートしましたが、改めて基本方針をお聞かせください。

ITインフラ流通事業による「ITインフラ」、繊維事業による「生活インフラ」、産業機械事業による「産業インフラ」の3分野を事業領域とすることで、ダイワボウグループとして「社会インフラ」に貢献する体制が整ったといえます。それをもとに新中期経営計画「イノベーション21」をスタートさせました。企業としての基盤固めができたわけですから、次は国際マーケットに打って出ることが目標になります。ですから新中期経営計画の基本方針は3つ。「シナジー効果による新市場・新事業の創出」「グループ協業体制によるグローバル戦略の推進」「独自性と差別化の追求によるコーポレートブランドの強化」です。厳しい環境下にはありますが、この3年間で成果を出していきます。

アジア中心にグローバル戦略推進 世界へ“ダイワボウブランド”を発信

─具体的な経営政策としては、どのような形になるのでしょうか。

例えば、新たに設立した香港法人、大和紡績香港の活動などはその典型といえるでしょう。従来は生産拠点を中心に海外展開してきたわけですが、これからは販売やマーケティングなどソフトの分野でも海外に進出していくということです。具体的には、ダイワボウノイの販売チャネルを通じてダイワボウポリテックやダイワボウプログレスの商品を販売する、あるいはカンボウプラスの商品をダイワボウポリテックの販売ラインに乗せるといったことが香港を基点に可能になります。ほかにもダイワボウノイがダイワボウポリテックの原料を使ってクールビズ、ウォームビズ向けの製品を開発するなど、何通りもの組み合わせがあります。
つまり、グループ協業によって商品を複合化し、販売も複合化することが可能になるわけです。これは国際市場において“点”ではなく“面”で戦うということですね。これがダイワボウグループの新市場・新事業創出であり、グループ協業によるグローバル戦略です。同様のことは、産業機械事業でも言えるでしょう。例えば、すでに台湾法人を設立して事業を開始していますが、ここを拠点に中国やアセアン地域での生産と販売を拡大していくことになります。

 

─コーポレートブランドの強化というのも大きな目標ですね。

残念ながら「ダイワボウ」という名前は、海外ではまだ十分に知られているとはいえません。マーケティング活動やIR活動も十分とはいえないでしょう。ようやくグループ全体で海外を中心にPR活動やIR活動を開始したばかりです。グループとして一定の売り上げ規模を持つ会社として、とくに「社会インフラ」に貢献する企業であるということをPRする必要があります。その中で「“ダイワボウ”といえば、品質にも優れる」というイメージを作っていかなければなりません。まずは事業を拡大させる中で認知度の向上を実現していくことを目指しています。
例えば、各事業が海外の展示会に出展する際に、きちんと「ダイワボウグループ」を打ち出すといったところから始めることになります。オーエム製作所がこのほど、インドネシアのスラバヤで開かれる産業用機械の国際展示会に出展しました。インドネシアではダイワボウの繊維事業が以前から事業展開をしてきたことで、ダイワボウという名前に一定の知名度があります。そこにダイワボウグループとしてオーエム製作所が出て行くことで、工作・自動機械分野でもアセアン地域で認知されるようにしていきたい。そうやって3年後には、様々な分野で「ダイワボウ」というコーポレートブランドが浸透しているようにしたいですね。

 

─グローバル戦略の推進という意味では、中国、アセアンを中心としたアジア市場がとくに重要ということですか。

やはりアジア地域での需要拡大という視点を見逃すことはできません。ノーベル経済学賞を受賞したアーサー・ルイスが提唱した「ルイスの転換点」が指摘するように、農業部門の過剰労働力が工業化によって都市部に移転し、さらに工業化によって農業部門の労働力が底をついたとき、賃金が上昇し、産業構造、そして社会構造に転換が起こるわけですが、いまアジア地域で起こっていることは、まさにこれです。よく国民1人当たりのGDP(国内総生産)が3000㌦を超えると、自動車が普及するなど消費市場が爆発的に拡大し、さらに1万㌦を超えると次の転換が訪れるとされています。いまアジア地域で起こっていることは、ちょうど1人当たりGDP3000㌦超えの段階。当然、そこで大きな需要が生まれるわけです。「社会インフラ」を事業領域とする当社として、その需要を取り込むことが極めて重要といえるでしょう。

2014年度には連結売上高6000億円へ 「イノベーション」で新しい価値を創出

 

─中期経営計画の最終年度となる2015年3月期での目標となる数字をお聞かせください。

中期経営計画の初年度となる2013年3月期の業績予想は、連結売上高5000億円、営業利益64億円、経常利益55億円、純利益24億円としています。そこから順調に拡大させるとして、やはり最終年度となる2015年3月期には連結売上高6000億円は達成したい。決して無理な数字ではありません。しかし、従来の事業の延長線だけで考えていては、達成はおぼつかないでしょう。やはり新しい価値を、事業活動を通じて創出していくことが欠かせません。今回の中期経営計画に「イノベーション21」という名前を付けた意図はそこにあります。
既に3カ年の中期経営計画がスタートしています。環境は依然として厳しいものがありますが、計画の達成に向けて全力で取り組みます。常に変化を先取りし、株主をはじめとしたステークホルダーの皆様の満足度をこれまで以上に高めていくことを目指します。引き続き、温かいご支援とご指導をよろしくお願いいたします。