不織布はフィールドが広い

──お二人とも不織布の前は衣料用繊維を長く担当されていました。

■阪口
71年に大学を卒業して大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)に入社したのですが、舞鶴工場で4カ月ほど研修してすぐに大阪に移りました。営業の受け渡しを1年ほど経験してから、空気精紡糸「エアコット」販売に移り、それからずっと営業畑です。衣料繊維の営業は原価構成からすべてが担当者の腕にかかっています。個人の力量にかかる比率が高く、面白さを感じましたね。
最初は三備地区と大阪で、子供服とジーンズを担当していました。77年から東京です。各社とも東京で婦人など大手アパレルの販売を強化していた時期で、当社もまずは東京出身者や東京の大学を卒業した人から選抜して攻めていくことになりました。それからはずっと東京ですが、価格だけではない世界で、素材へのこだわりや新たな加工に評価いただけるやりがいを感じることができました。このように入社から37年間は祖業である紡織・衣料テキスタイル事業でしたが、今年7月から合繊・不織布事業会社であるダイワボウポリテックの社長に就きました。

 

──高梨さんも衣料用繊維が長いですね。

■高梨
私は77年に大学を卒業して旭化成工業(現・旭化成)に入社しました。最初はアセテートを担当しました。当社は工場研修がなく、いきなり営業でしたね。ただ、アセテートは1年もせずに事業撤収することになりましたので、その後、キュプラ繊維「ベンベルグ」に移り、約25年携わりました。
ベンベルグではまず短繊維を担当し、泉州などの産地をよく回りました。その後はベンベルグ長繊維、とくに貿易担当が長かった。国内需要が縮小するなかで海外へという時代です。中国やソ連のような大きなマーケットではなく、東南アジアやインド、パキスタンへの輸出を約10年経験しました。今も続いているインドのサリーなど民族衣装もその一つです。その後、ベンベルグ裏地の営業部長になり、5年前に人工スエード「ラムース」の営業部長、2年半前から不織布事業全体をみています。

■阪口
私も25年前にベンベルグを使ったアウター素材の開発に関わりましたよ。コート地の「ブランシュール」で、品質の安定には苦労しましたが、かなりの反響がありましたね。旭化成さんとの共同開発はかなり早くにやっていたんです。

■高梨
その当時ですと私もベンベルグを担当していましたので、もしかすると当時お会いしていたかもしれませんね。

 

 

 

 

──その不織布もこれまで成長を続けてきましたが、08年秋以降は減産に転じ、09年も厳しい状況が続きました。今後は回復に向かうのでしょうか。

■阪口
とくに厳しいのは建材や自動車向けなどの産業資材分野ですが、不織布はフィールドが広いのでやりようはあるでしょう。もう一つの問題として中国品など安価な輸入品の増加があります。中国の不織布生産量はすでに96万トンに達しています。それに対し、日本は30万トン程度。量的には勝ち目はありません。
不織布の場合は、衣料用繊維のような急激な輸入増はないと思いますが、対抗するには、コスト競争力をつけるだけでなく、ナノファイバーなど、たやすく模倣できない差別化が必要です。今後は差別化商品をどれだけ持っているか、またそれをいかに展開していくかが重要です。

■高梨
当社は長繊維のスパンボンドが中心ですが、量を追いかけない方針です。この分野では日本の技術に一日の長がありますし、日本の顧客の要求も厳しい。今のところは日本品を買うメリットがあります

■阪口
ただ、輸入品の増加で日本品の価格が引っ張られる可能性もあります。

■高梨
おっしゃる通り、これ以上、デフレが続くと安ければ何でもよいと選別されるケースが出てきます。汎用品、準汎用品のゾーンは覚悟しなければいけません。
やはり、日本でコスト競争をすることは難しいので、海外に出て行くことや、すぐには作れないような差別化品を開発していくことが必要になります。

 

海外市場を開拓

──やはり、中国品は脅威ですか。

■高梨
中国にはどんどん設備が入っていきますし、日本人技術者のOBも中国に行っています。機械があって教える人もいるとなると、キャッチアップできますよね。やはり、日本の不織布メーカーは差別化を進めること、それができなければ海外オペレーションの構築が必要です。

■阪口
当社は海外戦略が遅れており、それが現在のテーマの一つになっています。マーケティングを進化させ、顧客を海外にも求めていくことが必要です。
EPA連携によるマルチアセアンで17億人、中国で13億人と、合計30億人のマーケットがこれからできてきます。今、日本市場ではインフルエンザ関連が好調に推移していますが、次の手を打つことが必要です。
不織布だけでなく、わた売りでは建材を強化していますが、ここでも海外に市場を求めていきます。
お客様をみますと、すでに海外へ出ている方も多い。MENA(中近東・北アフリカ)などにも進出していますよね。

 

 

 

──アジアの新興市場への期待も大きい。

■阪口
中国とマルチアセアンが協定を結べば、日本ははじき出されてしまう恐れがあります。できるだけ早く参入することです。
衣料繊維の歴史を振り返れば、輸入浸透率が96%になり、各社は海外拠点を強化し、日本市場に対する戦略を推進した結果、今では海外生産は当たり前になってしまった。不織布もその可能性があることを踏まえ、そうなる前に次の手を打つことが重要です

■高梨
衣料繊維での教訓を生かさなければなりませんよね。不織布業界でも輸入品が増え、海外での調達も進んでいます。その中で生きる形を考えないと。独自性のない商品は当然続かない。技術革新とともに、最終製品まで展開して囲い込む、もしくは知財や特許を押さえて囲い込むなどの手法が必要です。

■阪口
やはり国内の汎用品は量的に小さくなっていくでしょうね。

■高梨
量的にはそうなるでしょう。ただ、金額的には伸びるようにしたいですよね。

 

──両社とも海外販売には力を入れていますね。

■高梨
当社のスパンボンド不織布は海外販売が少なく、まだ輸出比率は5%程度です。

■阪口
当社も同じような水準ですね。

■高梨
この数字をみると、これまでよくやってこられたなと感じます。当社は不織布でも小ロット対応をして、その代わりに他社より高く買っていただく形でやってきました。しかし、この部分がジリ貧になりつつあります。やはり、将来の受け皿を考える必要があり、日本で培ったノウハウを海外で生かさない手はないと2年前から市場開拓に努めているところです。

■阪口
当社もこれまで海外への意識が低かったのですが、まずはグループ会社があるインドネシアを調査することから始めました。少し時間が必要ですが、海外での仕組み構築と国際的な人材の育成を進めていきたいと考えています。

 

──高梨さんのところは海外駐在員を増やしていますね。

■高梨
香港に1人、フランクフルトに3人置いています。汎用品で戦うつもりはありませんので、技術営業ができる人を置き、市場開拓を進めています。実績につながるにはもう少し時間がかかりますが、芽は出始めてきました。

 

製品化の方向へ

──欧米のマーケットは可能性がある。

■高梨
そう考えて取り組んでいます。日本でもそれなりの成功例がありますが、それを海外でもできないかと進めています。

■阪口
非常にすばらしいことだと思います。あと旭化成せんいさんは海外だけでなく、製品の段階にも入り込んでいますよね。製品まで展開するとその前後工程でも利益が出せるようになる。一気通貫の体制構築は当社の今後の課題でもあります。

■高梨
当社の場合は生い立ちも関係しています。ベンベルグ長繊維不織布「ベンリーゼ」は世界に一つしかない不織布で、「作っただけで売れるの?」というところからスタートしました。77年代に売り出した時、化粧パフやガーゼ代替を狙ったのですが、誰も初めての素材を扱ってくれませんから。結局、スリット、梱包、パッケージまで自らやらなけ
ればならず、製品供給のための設備を持つことも必要になりました。今は工業用ワイパー
やフェイスマスクなどにまで製品は広がっています。

■阪口
我々もコスメ製品など一部商品で製品化を進めていますが、まだ十分とはいえません。今後はマーケティングを強化し、お客さんの代わりに製品化を手伝うなど、場面に応じて製品化の方向に進んでまいります。

 

──不織布メーカー間のコラボレーションについては、どうお考えですか。

■阪口
各社の強みを組み合わせるという意味で、可能性はあると思います。国際的に見ると日本メーカー同士の競争という時代は終わっているかも知れません。

■高梨
差別化した原綿を使って製品化していく時、短繊維不織布を持っていればと思う時があります。長繊維と短繊維の独自素材を組み合わせていくことで新たな可能性が生まれます。

■阪口
作っているものはずいぶん違いますが、今回のような対談も、無から有を生む可能性がありますよ。今後も情報交換していきたいですね。

■高梨
そうですね。いろいろなことにつながる可能性があると思います。

 

──本日はありがとうございました。