ダイワボウホールディングスは昨年、工作・自動機械メーカーのオーエム製作所がグループに加わり、ITインフラ流通事業による「ITインフラ」、繊維事業による「生活インフラ」、工作・自動機械事業による「産業インフラ」という3領域で事業展開することになりました。
創立71年目として、新たな出発となる2012年。激動の度合いを深める現代に、ダイワボウグループはいかなる針路を取るべきか。新年に当たり、阪口政明社長と3事業をそれぞれ管掌する北孝一取締役専務執行役員(大和紡績社長)、野上義博取締役専務執行役員ITインフラ流通事業統括(ダイワボウ情報システム社長)、山村英司取締役専務執行役員産業機械事業統括(オーエム製作所社長)の4人が「どうなる2012年 激動の時代を生きるダイワボウグループの針路」をテーマに語り合いました。

あらゆる分野で構造変化

 

■阪口社長(以下、敬称略)
みなさん、あけましておめでとうございます。さて、振り返ると昨年は3月11日の東日本大震災に福島第一原発の事故と、まさに日本は国難ともいうべき状況に直面しました。また、海外に目を向けても欧州の金融危機、異常なドル・ユーロ安と円高、そしてタイの大洪水と世界各地で異常事態が相次いで発生しました。こうしたなか、従来のサプライチェーンが分断され、あらゆる分野で大きな構造変化の動きがありました。ダイワボウグループにとっても、震災でダイワボウ情報システム(DIS)の仙台支店やDIS物流仙台センターが被災し、繊維事業でも化合繊原料の調達に支障をきたすなど大きな影響がありました。一方、一部では震災からの復興需要なども見受けられます。そこでまず、3事業にとって昨年はどういった年だったでしょう。

 

 

■北取締役(以下、敬称略)
11年は03年からスタートした中期経営計画「ニューステージ21」の第3次計画の最終年度でしたから、繊維事業にとってもこの9年間を総括する年だったといえます。主要6事業会社の収益体制が確立するなど成果もありましたが、やはり3月11日以降、様々な変化が生じました。
なにより、経営の視点が大きく変化しています。なかでも事業におけるアジア市場の位置付けが大きく変わったといえるでしょう。円高に加え、中国やASEAN地域の経済成長が現在も続いているからです。

 

 

■野上取締役(以下、敬称略)
あらゆる面で“本来の姿”が見えにくかった1年でした。IT分野でも震災によってモノ作りが停滞する一方、復旧によって例えばPCなどで実際の需要とは異なる荷動きが発生しました。それに追い打ちをかけてタイの大洪水で、部品などのサプライチェーンに多大な支障をきたし、ふたたびIT商品の供給不安が顕在化しています。結局、リーマン・ショック後に顕在化した様々な問題が本質的に解決されずにいたことが明らかになった年だったのではないでしょうか。

 

 

■山村取締役(以下、敬称略)
工作・自動機械事業にとっても激動の年でした。工作機械はリーマン・ショック後、右肩上がりで受注が回復していたのですが、今回の震災でユーザーのみなさんの設備投資が止まり、受注もストップする状態が上期は続きました。ただ、下期に入ってからは少しずつ回復に向かっています。一方、自動包装機械は、節電関連などで予想外の受注が発生するなど、ここでも変化が生じています。

 

■阪口
各事業とも相当努力して、スピード感を持って昨年の緊急事態に対応してくれましたね。とくにITインフラ流通事業の健闘は素晴らしかった。とはいえ、勝負はこれからです。繊維事業は良い面と悪い面があったといえるでしょう。悪い面としては、震災によって供給が滞った原料の調達で苦労したことでしょう。輸入原料に切り替えるにしてもスペック調整の問題がありますから。良い面としては、例えば機能インナーなどで新しいマーケットが出現したことなどを挙げることができます。
いずれにしても、各事業とも環境に大きな変化が生まれたわけです。こういった流れが続くとすると、2012年も激動の年になりそうですね。

■北
今年は、米国、ロシア、フランス、韓国で大統領選挙があり、台湾も総統選挙の年です。中国も指導部の交代が予定されています。つまり、主要国すべてで政治指導者が変わり、まさに世界の勢力図が一変する可能性があります。加えて、欧州の経済危機がどうなるか。これが米国経済にまで波及すれば、それこそ世界的な景気後退につながりかねません。一方、日本では震災からの復興が本格化するでしょうから、その動きが景気にどう影響するか気になるところです。少なくとも経済のグローバル化が一段と強まると考えられます。

■山村
グローバル化の進展というのはそのとおりで、工作機械でも国内の設備投資が減少しているのは一時的な現象ではないと見ています。これだけの円高ですから、国内での製造業が極めて厳しい状況になっています。
機械のユーザーもますます生産の海外移転を加速させるでしょう。また、海外でのインフラ需要も一段と高まることは確実です。そうなると、これまではどちらかというと国内に事業の軸足を置いていましたが、機械メーカーとしては今後、好むと好まざるとに係らず、グローバル化の流れについていくしかありません。

■野上
IT分野も見通しが立てにくい時代になっています。例えば震災によって、データをどういう形で保管するのかという議論が始まりました。1カ所だけにデータサーバーを置いておくことへのリスクが問われ始めました。必然と言うべきか、クラウド化という問題が出てきます。これまでクラウドという言葉こそ知られ始めていましたが、実際の普及は進んでいなかったのです。ここにきて、いよいよ現実問題として検討されるようになっています。クラウド化が進めば、PCのあり方も従来とは構造的に変化するでしょう。また、スマートフォンの爆発的な普及が示すように、従来とまったく異なった商品分野が成長する可能性もあります。こういった変化に対して、それこそ試行錯誤しながら取り組む年になりそうです。
とはいえ、DISは30年間、地域密着主義で成果を上げてきました。これを今後もぶれる事なく、継続することにより国内でのDISシェアを上げていくしかありません。シェアを上げる事を怠らなければ、新しい商品が出現したとしても組み合わせにより対応できるからです。

存在するのは「国際市場」のみ

■阪口
政治、経済ともに国際的に大きな変化が起こる年になるとすると、それに対応してグループの方針も大きく変化させることを考えなければなりません。例えば現在の円高ですが、基軸通貨の信用が不安定化していることが要因です。そうしたなか、事業における投資はどうするのか。それこそ素早くリターンを得るような新たな尺度での経営資源の配分や投資戦略が求められます。また、経済のグローバル化が加速することで、国内市場と海外市場という区分が意味を成さなくなり、それこそ市場は“国際市場”しか存在しないという状況が生まれています。とはいえ、地域や国によってやり方が異なってくることもあるでしょう。
そういった面では、繊維事業はすでに海外で多くの経験を積んできました。問題は、海外での資金調達など財務を含めた管理体制の自立化です。

■北
グローバル市場のなかで成果を獲得するというのが繊維事業の基本的な方向です。そのための組織作りも基盤構築も進みました。今後は、グループ経営を重視していきます。
これまでは、どうしても各事業会社で方向感が分散しがちだったという反省があります。
これからは海外戦略も共同で取り組むことで総合力を発揮することが重要です。

■山村
工作・自動機械事業も「グローバル市場での業容拡大」「次世代商品の開発」「モノづくり力の強化」が基本方針です。現在の円高では、やはり機械の需要も海外に求めざるを得ません。そのために現在取り組んでいる海外での生産をスピーディーに行うことが大切です。また、経営資源の強化も欠かせません。ここでダイワボウグループが保有する経営基盤を活用できることへの期待が大きいですね。また、次世代商品の開発に加えて過去の蓄積を見直すことも重要です。例えば国内でかつて生産していた機械が、新興国の成長にともなって、海外で大きなニーズとなって復活する可能性もあるからです。また、機械事業はメンテナンスなどアフターサービスが極めて重要な事業ですから、海外を含めて人材育成と技術継承に取り組まなければなりません。

■野上
ITインフラ流通事業はメーカーではなく流通業ですから、海外展開といっても業態的に難しい面があります。しかし、視点を変えれば、それこそ世界中の商品を扱っているわけですから、グループで連携する中から、新しい取り組みが生まれるかもしれません。

■阪口
勘違いしてはいけないのは、事業のグローバル化と言っても、それは国内軽視という意味ではないということです。あくまで国内を基盤にしながら、市場を世界に広げていくという考え方が大切になります。

■野上
その意味では、グローバル化が進めば進むほど、地域に密着した拠点を持つ当社に対する顧客(販売店)の安心感は益々大きくなる事は間違いないです。

目指すは多面的事業展開

■阪口
さきほど、少し話に出たように、4月1日から新しい中期経営計画がスタートします。基本方針として、国際市場に対応できる拠点構築、新たな成長が見込める商品カテゴリーの取り込み、国内外での生産最適化を掲げています。従来のような単体主義では限界がありますから、グループの協業体制を作り上げ、それを海外にも広げていくということです。一極集中ではなく、多面的な事業展開が求められており、そのためにグループ一丸となって広いフィールドで活動しようという考え方です。

■北
繊維事業も従来の個別戦略からグループ戦略にシフトします。海外事業も従来は生産中心。今後はハードからソフト中心へと転換し、販売拠点として拡充させることになります。また、研究開発基盤の整備も重要ですから、国内工場の高度化を重点的に進めます。事業会社間で開発の共有化も進め、グループの総合力を高めなければなりません。その上で、アジア市場に打って出る。そのためには、海外企業とのアライアンスなども積極的に検討したいですね。
中期計画の最終年度となる2014年度には、繊維事業の海外売り上げ比率を15%程度まで高めることを目指します。

■山村
工作・自動機械事業にとってもグループ協働で海外展開することが重要ですし、場合によっては海外のパートナーと連携する必要もあります。急がないと3年間は短い。初年度となる今年が勝負の年です。ここで迅速に具体的な施策を決定し、残り2年で実行するという考え方で取り組まないと大きな成果は望めません。

■野上
従来の取り組みを続けることも重要です。例えばDISはハードウエアを販売して成長してきた会社です。その市場には、まだまだ成長の可能性があります。地域密着の拠点を活かしながら、引き続き力を入れていきます。そうしたなかで、新しい商品や市場を創造していくためには、常に新しい商品や市場に対して果敢にトライし、どうやって育てていけるかが重要である事は言うまでもありません。

■阪口
国際市場に打って出るという方向性は、共通していますし、単品販売からシステム提案型の事業へと進化させていくという考え方も各事業で共有されています。昨年、ダイワボウグループは創立70周年を迎えることができました。今年は71年目。つまり新しいスタートの年です。新中期経営計画の策定に合わせて、新しいグループ経営理念を「私たちは、創造と革新、融合のシナジーによって、グローバル市場でお客様第一に新たな価値を生み出し、人間社会と地球環境に役立つ未来を実現します」と定めました。また、コーポレートメッセージとして「明日の笑顔とともに」という言葉を掲げています。ITインフラ、生活インフラ、産業インフラという各事業領域を融合させながら、お客様の「明日の笑顔とともに」、今年も努力していかなければなりません。当社を取り巻く環境は日々変化していくでしょうが、常に時代の変化を先取りして行動するという姿勢は不変です。
今後も株主をはじめとしたステークホルダーの皆様の満足度を高めていくことを目指します。ステークホルダーの皆様には、引き続き温かいご支援とご指導をよろしくお願いいたします。