ダイワボウ情報システム(DIS)のICT総合イベント「DISわぁるど」が山形で開催されました。「DISわぁるど in 山形」は昨年9月10日と11日の二日間にわたって山形市内の総合コンベンション施設「山形国際交流プラザ(山形ビッグウイング)」で開催され、二日間で延べ4,032 名の来場者を集め、東北地域を中心に東日本のITビジネスの活性化に貢献しました。
各界の著名人やキーパーソンが登壇 開催地の地域の話題も関心を集める
「DISわぁるど in 山形」には開催地である山形県内のITベンダーや東北地域のITベンダーをはじめ、国内およびグローバルで名だたるITベンダーが出展し、展示会場では200以上の展示ブースで最新のテクノロジーやソリューションが紹介されました。
またセミナー会場では各界の著名人やキーパーソンが登壇し、IT活用およびITビジネスのヒントになる興味深い講演が行われました。特に世界で活躍した女子プロゴルファー、岡本綾子氏や、テレビ番組でおなじみの明治大学文学部教授 齋藤孝氏、そして脳科学者・医学博士・認知科学者である東日本国際大学教授 中野信子氏の講演では、公の場では聞けない貴重な話題もあり、ビジネスにおける振る舞いや考え方の面で大変参考になる内容でした。
開催地である山形県でのAI活用促進への取り組みも興味深い内容でした。山形県立産業技術短期大学校 校長 佐藤俊一氏とオーツー・パートナーズ 代表取締役社長でやまがたAI部 運営コンソーシアム 会長を務める松本晋一氏による講演「やまがたAI部の挑戦 ~高校生が考えるAIイノベーション~」では、地域および日本の未来を担う若い世代に向けたAI教育への取り組みが紹介されました。
さらに、デザインを通じて地域社会と連携し、持続可能なまちづくりを推進している、クリエイティブディレクターで東北芸術工科大学学長を務める中山ダイスケ氏が、山形県が直面している人口減少や地域活力の低下という地域課題への取り組みについて講演しました。

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- やまがたAI 部に参加する高校生の創造力と実践例が紹介された。
デザインと芸術は装飾ではなく社会課題に向き合う設計思想
中山氏はファッションショーの演出、舞台美術、店舗や商品のアートディレクション、商品デザイン、コンセプト提案など、幅広い分野のクリエイティブを手がけており、現在は東京を拠点にしながら、東北芸術工科大学の学長として毎週山形に通い、デザインを通じた地域社会との連携に取り組んでいます。
中山氏は「山形市は人口24万人ほどの小さな地域ですが、ここに芸術とデザインの大学があることは、地域の未来を支える創造力の拠点として大きな意味を持ちます」と強く語ります。
東北芸術工科大学の存在意義は単なる教育機関にとどまらず、地域社会における創造的な課題解決の実践にもつながっています。中山氏は「芸術とデザインは単なる装飾ではなく、社会課題に向き合う設計思想としての可能性も持っています」と説明します。
東京の美術大学で教鞭をとっていた経験も持つ中山氏は、東北芸術工科大学に着任した当初、学生たちの制作の姿勢に驚いたといいます。「世界市場や最先端の表現に関心の高い都市部の学生とは異なり、東北芸術工科大学の学生たちは、地域で暮らす高齢者や介護に追われる家族の生活に目を向けながら、身近な課題を出発点に制作を始めていました。その姿勢に、地域に根ざした創造力の本質を感じました」といいます。
さらに、東日本大震災の際に学生たちが示した行動も地域との関係性を深める重要なきっかけとなりました。復興支援に向けたボランティアプロジェクトを学生が主体的に構築したのです。
こうした地域の暮らしに寄り添いながら課題を捉える学生たちの生活に根ざした創造力は、プロのクリエイターの視野を広げる契機となり、従来の表現中心のデザインから一歩踏み込み、企画段階から課題に向き合うスタイルへと中山氏の仕事観が変化していったといいます。
クリエイティブディレクター/東北芸術工科大学学長
中山ダイスケ 氏
地域の知恵と創造力で自らの課題に向き合う
山形県の地域課題への取り組みについて中山氏は「人口減少、高齢化、空き家の増加、中心市街地の空洞化など山形県が抱える課題は多岐にわたります。これは、全国の地方都市でも共通する問題です。国立社会保障・人口問題研究所が公表している『日本の将来推計人口』によれば、2100年には日本の人口が5,000万人を切る可能性があります。高齢化の加速と労働人口の減少により、社会の仕組みそのものを見直さざるを得なくなるでしょう」と指摘します。
こうした変化の中で未来を担う世代がこれからの社会をどう築いていくのかが問われています。従来の成功モデルに頼るのではなく、地域が自らの創造力で課題に向き合い、新しい知恵と社会実験を通じて未来を築いていくことこそが、今後の社会を形づくる力になると中山氏は説きます。
その取り組み方について「これからは地域の知恵と創造力によって、社会を再設計する時代です。山形県には創造力を育む教育機関と、地域に根ざした連携の土壌が息づいています。その力は社会の仕組みそのものを “デザイン” し直す原動力となり得ます。次の時代を切り拓く可能性が、ここには確かに宿っています」と説明します。
山形県での地域課題に対する創造的な取り組みの成果は、山形県と共通の課題に直面する全国の地方都市のお手本となるほか、企業にとっても新たな価値創造の可能性を見出すヒントにもなりそうです。
AIを活用することで生じるセキュリティリスクへの対処
地域課題への取り組みに加えて、ビジネスであらゆる企業や組織に共通するサイバーセキュリティへの取り組みについても講演が行われました。特にビジネスではAI活用への期待が高まっており、AIを活用することで生じるセキュリティリスクへの対処が課題となっています。その課題への取り組みについて東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員 西尾素己氏が講演「AI時代のサイバーセキュリティ戦略 ~進化する脅威と企業が取るべき対策~」を通じてアドバイスをしました。
ビジネスでのIT活用では情報漏洩やランサムウェアといった脅威が年々深刻化しています。これらに対抗する新たな戦略として「能動的サイバー防御(Active Cyber Defense:ACD)」が注目されています。ACDとは攻撃を未然に防ぐために、兆候が見られた段階で先制的に対処するという考え方です。
日本政府はこれを“防御”と位置付けており、2025年には「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」など、ACDを導入するための関連法案を成立させています。
西尾氏は「この法律によって重要インフラを守るために警察や自衛隊などが攻撃元とされるサーバーなどにアクセスし、プログラムの停止・削除や設定変更などの『攻撃者の実態に即した無害化』措置を講じることが可能になります。こうした措置を防御と位置付けているのは、法制度上の整理や憲法との整合性を踏まえた言い回しとされています」と説明しています。
東京大学先端科学技術研究センター
客員研究員
西尾 素己氏
警察官と自衛官による無害化措置 民間の専門企業との連携が不可欠
無害化措置とは攻撃を仕掛けてきた相手のサーバーに対してその脆弱性を突いて侵入し、不正プログラムを無力化する行為を指します。西尾氏は「仮に攻撃元のサーバーが日本のメーカーが製造した機器やソフトウェアを使っていた場合、結果的に政府が自国製品の脆弱性を通じてアクセスすることになります。これはメーカー側にとって、技術的にも倫理的にも慎重な対応が求められる場面と言えるでしょう」と指摘しています。
実行部隊としては警察庁と自衛隊が想定されますが、現実的には技術力やリソースに限界があるため、高度な専門技術を提供する「民間協力」が必要になります。法案では措置の実施権限を警察官と自衛官に限定しているものの、官民連携の強化が謳われており、日本のセキュリティ企業が技術的な支援という形で深く関わることが確実視されています。西尾氏は「実際にサイバー攻撃の現場で使われる手法は高度かつ複雑で、専門的な訓練を受けた技術者でなければ対応は困難です。警察や自衛隊が単独で運用するには限界があり、民間の専門企業との連携は不可欠です」と説明しています。
攻撃者の実態と企業が取るべき対策 “受け身” ではなく能動的な防御を
サイバー攻撃の実態と制度設計との間には認識の違いもあると西尾氏は指摘しました。西尾氏は「ACD関連法案では攻撃者がボットを経由して攻撃してくるという構図が前提とされていますが、実際の攻撃はそれ以上に多層的で複雑です。攻撃者はコンテンツ配信ネットワークを使ったドメインフロンティングや、ログを残さないレンタルサーバー、攻撃用インフラを提供する業者など、複数のレイヤーを駆使します。これらを無視してボットだけを潰しても、根本的な解決にはなりません」と指摘しています。
近年はサイバー攻撃がビジネスとして成立しており、犯罪者が業態転換して参入するケースもあるといいます。西尾氏は「かつて物理的な犯罪に関わっていた人々が、今ではサイバー攻撃を生業にしています。攻撃ツールもパッケージ化されて販売されており、クリック一つでマルウェアが作れます」と、攻撃者の裾野の広がりと、攻撃インフラの商業化を警告しました。
サイバー攻撃の高度化と商業化が進む中、西尾氏は企業には “受け身” ではなく、能動的な防御姿勢が求められると訴えました。境界型防御に加えて攻撃の兆候を早期に検知し、迅速に対処できる体制の整備が不可欠となります。インシデント対応の即応体制、脆弱性管理の徹底、外部専門家との連携など、平時からの備えにも力を入れるべきだといいます。