2025年8月、ダイワボウホールディングスは今期(2026年3月期)の業績予想を上方修正しました。過去最高業績の更新を見込む一方で、需要反動減への対応や事業ポートフォリオの変革といった課題に対して中長期の成長軌道を示していく必要があります。将来にわたってグループを発展させるための戦略について、西村幸浩社長に聞きました。

 

ダイワボウホールディングス
代表取締役社長

西村 幸浩

 

※今期より夏季期間の軽装を推奨しています(9月撮影)

 

━ 中期経営計画期間の半分を終えました。前半の振り返りと後半に向けた課題を教えてください。

 

新たなグループ体制で臨んだ2025年3月期は、Windows10のサポート終了に伴う更新需要を中心とした追い風を捉えながら、GIGAスクール構想第2期に向けた取り組みも奏功し、ITインフラ流通事業として初めて売上高が1兆円を超えました。中期経営計画の初年度として理想的なスタートを切れたことは、全国の営業拠点において市場の変化にしっかりと備えてきた成果であり、次の成長ステージに向けた手応えを感じています。

 

グループ経営指標として設定しているROEとROICについても目標水準を上回り、資本効率の改善と財務基盤の強化は順調に進捗しています。こうした成果を受け、今期は当初の中期経営計画を大幅に上回る業績予想を発表しましたが、第1四半期までの業績を踏まえてさらに上方修正しました。売上高・営業利益ともに過去最高業績となり、特に連結営業利益は400億円を突破し、新たなステージに到達する見込みです。この力強い結果を確実に未来の競争力へとつなげる年にしたいと考えています。

 

現在の中期経営計画期間は、当社グループの中長期ビジョン『2030 VISION』を見据えた重要な3年間です。ここまでは当初の想定を上回る業績で推移していますが、最終年度となる2027年3月期には需要の反動減が予想されています。その影響を最小限にするためにも、既存事業の強化と並行して、新しい収益源を育てることが欠かせません。

 

そのために、当社グループはM&A戦略の実現に向けた体制強化と具体的な施策検討を着実に進めており、事業ポートフォリオの最適化に向けた協議を深めています。『2030 VISION』で公表したエクイティストーリーを揺るぎない指針として、ITディストリビューションを基盤にしながら、ITソリューションやITサービスといった成長領域への投資によってバリューチェーンを“つなぐ”ことで、グループとしての価値向上に挑戦していきます。

 

 

━ グループ基本方針を実践するために重視しているポイントはありますか。

 

中期経営計画で掲げたグループ基本方針の一つに「ステークホルダーエンゲージメントの向上」があります。統合報告書をはじめとした社内外への情報公開の充実を図りながら、ステークホルダーの皆様との対話を通じて要望や期待を共有し、これからの事業活動に適切に反映していくことが重要です。

 

当社グループの事業戦略やビジネスモデルに対してのディスカッションの機会では、当社グループの「将来性」に対する関心が特に高いと実感します。例えば、ITインフラ流通事業の売上構成としてPCが大きなウェイトを占めていますが、一時的な需要の変動に一喜一憂せず、PC市場の成熟やAIビジネスの台頭といったIT 業界全体におけるトレンドとの“ズレ”がないかを常に意識することが大切です。

 

これまでの安定的な業績拡大は、当社グループの強みが市場環境の中で“仕組み”として効果的に機能してきた結果を表しています。ただし、それが将来にわたって約束されることはなく、グループとして既存領域に依存しない価値創出モデルの構築が求められています。そして、その実践のために当社グループのブランド価値について、あらためて見つめ直す必要があると考えました。

 

 

━ グループのブランドを大きく変える方針について具体的に聞かせてください。 

 

ステークホルダーとのエンゲージメントを高める、つまり共に前進していくという意味では、「ダイワボウ」という旧来の事業構造を連想する社名のままでは、グループの変革が伝わりにくい面があります。『2030 VISION』においても、当社のあるべき姿の体現に向けた社名変更について言及していますが、本格的な「リブランディング」の検討に着手しました。


リブランディングは、株主・投資家、取引先の皆様などに向けて対外的に変革の意志を示すだけでなく、未来を含めてグループで働く従業員にとっても「私たちはどこへ進むのか」を明確に伝える重要なメッセージです。もちろん、長い歴史を持つ社名を変更することは簡単ではありませんので、入念に議論を重ねています。やはり、パーパスとして掲げている「つなぐ」というキーワードは特に意識しています。新しいブランドは、当社グループとしての理念やストーリーを込めることで、ステークホルダーが納得感を得やすいものであることが重要です。

 

そして、エンゲージメント向上という観点では、リブランディングと人的資本戦略がグループとしての信頼を高める両輪になると考えています。すべての従業員が働きがいをもって活躍できる舞台を整えることは、ブランド価値を内側から強化する取り組みでもあります。

 

 

━ 人的資本戦略の推進に向けたメッセージをお願いします。

 

人的資本戦略の目的は、一人ひとりの従業員が自身の可能性を最大限に引き出せる環境を実現することです。KPIとして掲げた経営指標の改善を通じて、企業価値の持続的な向上を目指します。そのために、現在の中期経営計画の3年間で、グループとして当初計画を大幅に上回る140 億円超を投資し、ウェルビーイング経営の推進を掲げています。

 

当社および各事業会社で取り組んでいる人的資本施策をしっかりと連携させて、体系的に戦略として推進することで、マーケットにおける競争力を高めることを強く意識しています。まず、人材採用と人材育成の強化については、事業ごとの特性にあった人材ポートフォリオを構築するために欠かせない取り組みです。多様な採用形式や教育プログラムを取り入れながら、既存領域における体制強化に留まらず、M&Aや新規事業など将来的なグループの可能性を広げる専門スキルを持つ人材を拡充していきたいと考えています。


またDE&I (ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進も大切なテーマです。現在の人員構成から急激に変化させることは難しくても、丁寧に時間をかけながら従業員の多様な個性を尊重する文化を醸成することが、組織のイノベーションを生み出すことにつながります。あわせて、処遇面の改善や人事制度の見直し、健康経営の推進などの具体的な施策によって、従業員が「働きがい」と「働きやすさ」を実感しながら、長期的にパフォーマンスを発揮できる環境づくりを着実に進めています。

 

例えば、当社では今期から猛暑における健康管理の観点も含めて夏季の軽装推奨を始めましたが、このように一目で変化の分かる施策はスピーディーに実行していきたいと考えています。人的資本戦略は、業績に直結する効果が表れる特効薬ではありません。非財務面での価値創出を促すことで、業績を拡大し続ける原動力を育むための地道な活動です。


当社グループは「人」で成り立っています。事業ポートフォリオやグループのあり方が大きく変わっていく中にあっても、従業員が誇りを持ち、相互に新たな挑戦を歓迎する社風を継承していくことが、経営の責任だと考えています。「人をつなぎ、未来へつなぐ」という理念を常に共有しながら、グループのさらなる進化を目指します。