今年6月、ダイワボウホールディングスの社外取締役に松下電工およびパナソニックで長年にわたり製品開発と経営に携わってきた堂埜 茂氏が着任しました。技術者として製品開発にかけた情熱と実績、経営者としての視点と手腕を持つ堂埜氏が、ダイワボウ情報システム(DIS)を中心とするグループの未来にどのようなビジョンを描いているのか、お話を伺いました。

ダイワボウホールディングス
社外取締役
堂埜 茂

 

社会に貢献したいという想いから挑んだ

革新的マッサージチェアの開発

 

大阪出身の堂埜氏は大学で機械工学を専攻しました。ものづくりへの興味を深めていた堂埜氏は「技術者として社会に貢献したい」という志を持ち、日本を代表する製造業である松下電器株式会社(現パナソニック株式会社)への入社を志望し、その中でも製品開発に携われる部署を強く希望しました。採用面接では配属の確約は得られず、それでもものづくりを通じて社会に価値を届けたいという強い想いから、松下電工株式会社(現パナソニックエレクトリックワークス社)に再び挑戦。念願だった開発部門への配属が叶い、同社への入社を決意しました。

 

松下電工の主力事業は照明器具、配線器具(スイッチ・コンセントなど)、電設資材、建材、住宅設備といったBtoB のビジネスでしたが、個人消費者向けの理美容・健康家電も手がけ、堂埜氏が携わった中で最も記憶に残るのは「マルチモーター」を搭載したマッサージチェア開発への挑戦です。


当時のマッサージチェアは一つのモーターで「たたく」「揉む」などの複数の動作を行う仕組みが一般的で、一つのモーターでできる動作には限りがあり、実際のプロのマッサージ師の手技を再現できないという点が課題でした。堂埜氏は複数のモーターを組み合わせたマルチモーターを用いることでマッサージ師の手技に近い、複雑な動作を再現するアイデアを構想しましたが、当時はまだモーターの価格が高く、すぐに開発に着手することは叶いませんでした。

 

その後モーターの価格が下がり、開発の見通しが立ったことから、いよいよ挑戦に取り組むことになります。マルチモーターでどのような動きを実現すればお客様に喜んでもらえるのか。プロのマッサージ師の手技を再現するためにまず取り組んだことは、マッサージ師の手指にセンサーを装着し、細かな動きや力加減などの微妙な変化を計測したことです。本来は数値化が難しい「心地よさ」という感覚を、センサーによってさまざまなデータとして計測、蓄積することで、そのデータをもとに複数のモーターを精緻に制御し、実際の手指の動き、圧力に近い動作を再現することに成功しました。マルチモーターを搭載したマッサージチェアという、当時としては画期的な商品を生み出すことができたのも、「どうしたらもっとお客様に喜んでもらえるのか」という強い想いから、これまでにないアイデアが生まれ、それを実現するための試行錯誤が実を結んだ結果です。堂埜氏のその後の開発スタイルにもつながる重要な経験になりました。

 

 

「ナノイー」開発が生んだ新しい価値の創造
製造からソリューションへ

 

堂埜氏はパナソニックブランドの理美容・健康家電で数々のヒット商品に搭載されている「ナノイー」の開発にも携わりました。ナノイーとは、空気中の水分に高電圧を加えて生成される、水に包まれたナノサイズの微粒子イオンのことです。このナノイーには除菌などに役立つ成分が含まれており、この成分が菌やウイルス、アレルギー症状を引き起こす原因となるアレル物質、ニオイなどに作用し、その働きを抑制する効果を発揮します。一般的な空気イオンと比べて寿命が長く、部屋の隅々まで広がって効果を発揮できることが特徴で、パナソニックのエアコンや空気清浄機、ドライヤーなど、さまざまな家電製品に搭載されています。


注目すべきは、自社製品にとどまらず、競合と言われるような他社製品にもナノイーの搭載が広がった点です。その背景について堂埜氏は「ナノイーを自社製品に搭載しているだけでは販売規模もいずれ頭打ちになり、製造コストの逓減にも限界があります。そこでナノイーをひとつの商品として他社メーカーに販売することで、ナノイー自体の事業化を進めました。」と説明しています。ナノイーを社外に販売することでビジネスの規模を拡大するとともに、製品ひとつあたりのコストも下げることが可能となります。ナノイーは現在、電車や自動車、人が多く集まる空間など広く利用されています。

 

さらに「製造・販売だけでなく保守・サービスというソリューションビジネスも同時に展開することで、一つの製品から多面的、また長期に及んで収益化を実現することができます。これはデバイスビジネスをより拡大させるための基本中の基本です。」と堂埜氏は強調します。ナノイーと同様のビジネスモデルは、エアコンや冷蔵庫などに不可欠なコンプレッサーでも展開されています。ナノイーの開発は、ものづくりだけでなく、新しいビジネスモデルを展開することによってさらに社会に価値を提供することができた経験となりました。

 

 

さらなる成長に向けて

 

2025 年3月にパナソニックを退職後、堂埜氏は「技術者としての経験を生かせる場」を模索し、複数社からオファーがある中でも「DIS のビジネスモデルに可能性を感じた」ことが決め手となりダイワボウホールディングスの社外取締役を引き受けることとなりました。パナソニック在籍時代にDISと直接の取引はありませんでしたが、「パナソニックの主力モバイルPCである『レッツノート(Let’s note)』の販売においてDIS が一役を担っていたことから、営業力には一目置いていました。」と堂埜氏は語っています。「DIS のさらなる成長に向けて、今後は販売にとどまらずお客様の課題解決に資するソリューション提供が求められます。全国に拠点を持ち、地域密着型の営業を展開しているDIS は、IT 業界の中でも独自のポジションを築いています。DIS の営業担当者は顧客の課題を理解し、提案できる力を持っているため、課題を抽出する力を強化し、提案する解決策に技術的な裏付けを加えれば、より高い付加価値をもったサービスとなり、強みとなります。お客様の課題を解決し、どうすれば喜んでもらえるのか。お客様のためになる提案は、最終的に企業の成長につながります。」技術者として培った知見や経営者の経験を生かした堂埜氏の手腕に期待が寄せられています。