ダイワボウホールディングスは、自社のルーツである繊維事業をグループから独立化し、新たに制定したパーパスに基づいて理念体系を改定するなど、グループとしてのあり方を大きく変革しつつあります。次期中期経営計画では、新体制による持続的な発展をステークホルダーに示すことが求められる中、西村幸浩社長が今後の展望について語りました。

ダイワボウホールディングス

代表取締役社長

西村幸浩

 

― 繊維事業の独立化が実現しましたが、これまでの取り組みをどのように評価していますか。

 

2023 年11月、当社は連結子会社であった大和紡績の株式85%を譲渡することを取締役会にて決議し、次期中期経営計画策定に向けて、検討を重ねていた繊維事業の当社グループからの独立化が実現しました。当社にとって難しい決断を伴う大きな改革となりましたが、長い歴史を持つ繊維事業の将来を尊重し、持続的な価値最大化のために「ベストオーナー」を選定した結果です。

 

大和紡績が自立した成長を遂げるためには、積極的な研究開発や大規模な設備投資など、機動的な意思決定が求められます。繊維事業の新たなパートナーとなったアスパラントグループ株式会社は、潜在的に競争力のある国内企業に投資し、業績改善を支援することで企業価値向上を行う豊富な実績を持ち合わせており、大和紡績の強みである素材開発力などを活かしてさらなる事業拡大を目指すことができる体制になりました。

 

当社グループは、その歴史とアイデンティティの一部であった繊維事業と、これからはそれぞれ別の道を歩んでいくことになりますが、お互いに新たなステージでより多くの価値を提供できると信じています。

 

繊維事業の独立化の本格的な検討について2023 年5月に発表して以降、多くのステークホルダーとの対話を重ね、さまざまな意見をいただきました。今回の当社グループの再編に対しては前向きな評価を得られていると実感しています。

 

1941 年の大和紡績創業を起源として、当社は社会のニーズ・課題に応え事業を発展させてきました。そして、グループとして10 年以上続いた3 事業体制から新たな局面を迎えることになります。対外的な発表や説明について、これまでの3つの事業セグメントを前提とした表現を見直していくことになりますが、従来の考え方にとらわれない対応力こそが、当社グループの最大の強みです。グループの成り立ちや今後の方向性をしっかりと整理し、株主・投資家、従業員、取引先の皆様との関係性を大切にしながら、新体制への円滑な移行を目指していきます。

 

― 現中期経営計画の最終年度の見通しはいかがでしょうか。


第3 四半期までの振り返りとしては、ITインフラ流通事業が企業・官公庁向けを中心に安定的に需要を獲得したことで業績をけん引し、連結売上高・営業利益ともに前年同期を上回ることができました。今後もWindows10のサポート終了やGIGAスクール端末の更新などの業績にポジティブなインパクトを与えるイベントが控えており、需要増加要因が期待されている一方で、サブスクビジネスなどの順調な拡大により、平常時の収益力も着実に向上しています。また産業機械事業についても、徐々にではありますが主力の航空機業界や鉄道業界向けの需要回復が期待できる環境になってきました。


現行の中期経営計画に対しては、売上高は2 年目の段階で最終年度の目標水準を突破しましたが、さらに業績を拡大して着地できると考えています。一方で営業利益については、資材価格の高騰等の市場環境による影響が大きく、グループとしての最終目標には到達できない予測であり、次期計画に向けた課題と捉えています。


また第3 四半期に特別損失を計上していますが、これは大和紡績の株式譲渡に伴う会計処理によるもので、現金支出を伴わない一過性の損益項目となり、事業による収益性への影響はありません。譲渡で得た資金については、財務基盤の強化や株主還元および成長投資の原資として活用していきます。

 

 

― 次期中期経営計画の策定方針を教えてください。


次期中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)においては、当社グループの事業ポートフォリオが変化していく過程を社内外で共有し、ホールディングス体制のあり方を明確にすることが重要課題と考えています。グループとしての提供価値や、成長のポテンシャル、持続可能性などの道筋をエクイティストーリーとして掲げ、新たな事業領域への経営資源の投入について積極的に検討していきます。


業績面では、2021年3月期に達成した過去最高業績の更新に挑戦することを一つの命題と認識しています。3年間で予測される需要の動きに対して綿密に準備を行い確実に獲得していくことはもちろん、トレンドの変化を先読みしながら成長機会を捉え、さらなる事業領域の拡大につなげていきます。

 

また成長投資と株主還元の最適化を図るために配分方針の議論を重ねており、グループ全体の価値最大化を目指し、ホールディングスとしての責任を果たしたいと考えています。短期的な視点のみではなく、2030年以降も見据えた長期ビジョンを検討することで、ステークホルダーの期待に幅広く応えられる経営計画の策定に取り組んでいます。

 

― グループ理念体系の改定についてメッセージをお願いします。

 

「バリューチェーンで人をつなぐ、社会をつなぐ、未来へつなぐ」―これは2023年に制定した当社グループのパーパスですが、このパーパスを軸にした新たなグループ理念体系を整備しました。パーパスについては統合報告書で発表していますが、あらためて意図について説明したいと思います。


パーパスは社会における企業の存在意義を示すものであり、昨今は企業が永続的に発展していくためにパーパスが重視される時代になっています。当社グループにおいても、どのように社会に貢献していくのかを明確にすべきと考え、あらためて自社を見つめ直しました。

 

「つなぐ」というキーワードが表すとおり、いずれの事業会社も取引先や地域とのつながりを大切にする風土があります。さまざまな社会活動を構成するバリューチェーン(価値連鎖)の中で、当社グループは重要な役割を担っており、ビジネスに携わる人々や企業、地域社会をつなぐことで価値を創出しています。また当社だけでは解決が難しい社会課題に対しても、バリューチェーンの総合力を発揮して取り組むことができます。


そして未来に向けて、より社会を快適に変えていくためにグループを挙げて幅広く貢献していくことをあらためて掲げました。このパーパスを礎にして、すべてのステークホルダーにとって「なくてはならない企業グループ」であり続けることを目標としています。


そして大和紡績時代から受け継いできた社訓をはじめとする従来の「グループ理念体系」について、その精神はパーパスに包含されていることから、新しいグループ体制に適した内容に刷新することとしました。理念体系として浸透させるには、グループの存在意義のみではなく、それをどのように体現していくのか、という考え方について同時に共通認識を持つ必要があります。


そのため、パーパスを「私たちの存在意義」として表現し、あわせて「私たちの価値観」として、「パートナーシップ」「多様性と尊重」「感謝と熱意」「誠実と公正」「価値創造への挑戦」という5つの構成要素を選定しました。これはパーパスを実践するために会社として大切にする共通の価値観であり、グループ従業員にとっての行動指針および事業活動の判断基準としていきたいと考えています。


これからも当社グループのビジネスモデルは、移り行く時代に対応しながら変革を繰り返すことになるでしょう。難しい選択に直面したときには、このパーパスと価値観に立ち返って、あるべき姿をしっかりと議論することで、社会課題の解決と持続的な企業価値向上を両立させる経営を力強く推進し、グループのさらなる発展に「つなげる」ことをお約束します。