今年6月に、東京エレクトロンで法務・知的財産・経営戦略を担当した堀哲朗氏がダイワボウホールディングスの社外取締役に就任しました。堀氏は東京エレクトロンのグローバル化を推進したほか、海外企業などとのM&Aを手掛けるなど、法務および知財、財務・会計・ファイナンスに関して豊富な知見と経験を持っています。東京エレクトロンの電子部品事業本部(現東京エレクトロンデバイス株式会社)での半導体ディストリビューターとしての経験をダイワボウ情報システムのICTビジネスに生かしつつ、グループ全体から生み出される価値を追求していきたいと意気込みを語りました。

ダイワボウホールディングス
社外取締役
堀 哲朗

恩師の言葉に影響を受けて就職する会社を選択

 

堀氏は東京都新宿駅の近くで生まれ、幼少期を過ごしました。当時はまだ西口の高層ビル群はなく、小学校に上がったころに現在の西口地下広場ができるなど、今の新宿の形ができた時期でした。大学卒業後に東京エレクトロン株式会社に就職します。そのきっかけについて、堀氏は「大学3年生だった1984年に、大学で所属していたゼミの助教授が『1960年代を代表する日本の企業はソニー、1970 年代は京セラだ。1980 年代はまだ終わっていないけれども、東京エレクトロンという会社があり80年代を代表する日本の会社になる可能性がある』と話していたことから、東京エレクトロンに関心を持ちました」といいます。


その大学の助教授の言葉に強く影響を受けた堀氏は、総合商社、銀行、メーカーなどから内定を受けましたが、最終的に東京エレクトロンを就職先に選びました。1985年の入社直後、メモリー価格が暴落した「DRAM不況」が市場を襲い、東京エレクトロンも深刻な打撃を受けました。ここで多くの同期が会社を去りました。しかし、“ 新し物好き”を公言する堀氏は、同期の多くが辞めていく中でも半導体ビジネスの将来を悲観することなく、技術革新が繰り返される半導体とそれを搭載するコンピューターにむしろ将来性を感じていたといいます。

 

やがてパソコンが企業をはじめ家庭にも普及していき、東京エレクトロンは加速度的に成長を続け、堀氏の恩師が言ったことが、時期はやや遅れたものの現実となったことはご存じの通りです。

 

成長の継続には時代の要請への柔軟な対応が必要

 

堀氏は1986 年から1989 年にシリコンバレーに駐在し、そこで半導体の買い付けなどを行っていました。その後半導体の営業、法務、経営戦略などグローバルビジネスの最前線で活躍し、同社の成長に貢献。2013年に発表された東京エレクトロンとアプライド・マテリアルズ社との経営統合の実務のとりまとめを行い、その実績が評価され、取締役および代表取締役CFO(最高財務責任者)などを歴任し、グローバル企業の経営に携わってきました。
 

東京エレクトロンで培った自身の経営手腕を他の企業でも生かしたいと考えていた堀氏は、ダイワボウホールディングスからの社外取締役就任の依頼を快く引き受けたといいます。

 

堀氏は「ダイワボウホールディングスの事業会社の一つであるダイワボウ情報システム(DIS)はICT専門のディストリビューターですから、半導体ディストリビュータービジネスでの経験も生かせると思いました。DISは当初はPC-9800シリーズなどNECのパソコンを販売していましたが、IBM PC/AT 互換機やWindows搭載PCが普及を始めると、その変化に応じてビジネスを柔軟に対応させ、現在はハードウェアに加えてクラウドによるサービス提供にも力を入れるなど、将来性のある会社です。これほど大きく成長していることに驚きました」と述べています。


そしてDISの成長について堀氏は「DISはこれまでも新しいテクノロジーを自身のビジネスに取り入れて成長してきました。生成AIの急速な普及などを見ると、その取り組みは今後さらに重要になると見られます。新しいテクノロジーに触れて新しいビジネスのアイデアを生み出すには、テクノロジーに強いこだわりを持ち、敏感なアンテナを張り巡らせている『オタク』と呼ばれる人材の登用と、その意見に耳を傾ける組織全体の寛容性が求められます」との意見を持っています。

 

事業ポートフォリオの検証と正確な目標設定が課題

 

ダイワボウホールディングスにはDISのICT事業のほかに、大和紡績の繊維事業とオーエム製作所の産業機械事業があります。ダイワボウホールディングスの事業会社の構成について、堀氏は個人的な意見であると断った上で「日本の企業は選択と集中という言葉のもとで、持っている資産を削ってしまい、その動きが日本企業を弱くしてしまったのでは」と述べています。「ダイワボウホールディングスには時代時代で日本の産業を支えた実績がある繊維事業と産業機械事業があり、現在そしてこれからの成長産業であるICT事業もあります。この事業ポートフォリオを検証するとともに、事業価値向上を目指していくのですが、これは容易なことではありません。来年5月には新中期経営計画の発表を予定しておりますが、これは非常に重要なターニングポイントになると考えています。」

 

さらに成長に向けた取り組みにおいて、目標の設定の重要性も指摘しています。堀氏は「売上や利益の目標達成を、ノルマとして取り組むのは正しくないと考えています。数値が最初の目標に来るのではなくどういう会社を目指すという姿があって、その結果を数値で表すとこうなるというのが、あるべき姿だと思うのです。数値目標は重要ですが、目標の数字を外すのは、経営者があるべき姿と市況や経営資源の関連を正しく把握していないからだと感じます。企業は事業の集合体です。個々の事業の成長の余地、その市場環境、成長に向けて費やせる資源といった実態を把握して、個々の事業の数字を積み上げていけば実態に即した目標が設定でき、目標に対する実績に大きな差は生じないはずです。数字うんぬんではなく、経営者が自社事業に対するビジビリティをどれだけ持っているのかが問われるのです」と説明しています。

 

そして「個々の事業会社のガバナンスを強化して経営者が個々の事業をきちんと見られる仕組みを築くとともに、社員の話に耳を傾けること、都合の悪い話もできるカルチャーを醸成することなど、事業の現場から正確な情報が伝わってくるようにすることも必要です。そんな風土を作れるよう、私はダイワボウホールディングスに貢献して行きたいと思っています」と自身の役割を含めてこれからの取り組みを語りました。