グループの持続的な発展のために全社員が知っておくべき開示の内容や目的、今後の取り組みについて、グループ社員による座談会形式で解説します。

ESGとSDGsの違いについて

小谷 昨年12月に新しいグループ企業行動憲章が公表されました。改定の主なポイントの一つでもあるESGとSDGsは併記されることが多いと思いますが、これらの違いは何ですか。


南室長 ESGは企業が事業活動を行う上で、ステークホルダーに対する配慮が必要であるとの考え方を指します。SDGsも同様に社会に対する配慮を定めた考え方ですが、ESGで注目される社会課題を具体例や目標とする数値で整理したものがSDGsとなります。ESGが問題解決のプロセスであるのに対して、SDGsは達成すべき目標、すなわちゴールそのものをいいます。


小谷 企業行動憲章の改定とあわせて、人権、ダイバーシティ、サプライチェーンマネジメントの三つの考え方も開示しました。その理由を教えてください。


南室長 まず、改訂コーポレートガバナンス・コードが2021年6月に施行されたことが挙げられます。主な改正内容としてサステナビリティを巡る課題への対処を開示すること、またプライム市場上場会社においてはTCFDおよびそれと同等の枠組みに基づく気候変動の開示が求められるようになりました。もう一つの理由としては社会情勢の変化です。特に近年、人権問題、ダイバーシティ、サプライチェーンマネジメントに対する重要性が増してきています。例えば最近のニュースで政府は夏をめどに取引先などの人権侵害リスクを調べて予防する「人権デューデリジェンス」の指針を検討しているとの記事もありました。「お客さまから急に調達に関する質問表が送られてきた」といったことも今後は増えるかもしれません。また投資家においても、企業によるサプライチェーンマネジメントを重要視するようになりました。

TCFD提言に基づく情報開示の必要性

小谷 TCFDとは何でしょうか。

 

南室長 TCFDとは気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称です。気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討するためG20からの要請を受け、FSB(金融安定理事会)が2015年12月に設置しました。炭素排出量をより少なくし、気候変動に対して強靭な経済への円滑な移行を通じて、金融市場を中長期的に安定化することを目的としています。


小谷 なぜTCFD提言に基づく情報開示(以下、TCFD情報開示)が必要なのでしょうか。


南室長 プライム市場の上場会社にはTCFDまたは同様の枠組みに基づく対応が期待されています。将来の気候変動を踏まえたリスクと機会の洗い出し、そして戦略を開示することが求められています。


小谷 TCFD情報開示に向けた当社グループの取り組み状況を教えてください。


南室長 策定にあたっては事業各社の協力が不可欠となります。事業会社およびホールディングス各室の協力のもと、ESG推進会議の分科会として、昨年12月より立ち上がったTCFD対策ワーキングチームにてTCFD情報開示に向けた準備を進めています。ESG推進体制での審議を重ね、ホールディングス取締役会を経て情報開示を予定しています。

CO2削減目標を30%に設定した理由

小谷 当社グループではCO2目標について30%を設定しています。数値の根拠について教えてください。


南室長 当社はESG推進体制を通じて、Scope1と2の国内排出量を2013年度比30%削減するグループ目標を掲げています。まず基準年ですが、2013年度はパリ協定で日本が表明した基準年度となります。そして削減目標については、SBTを意識した目標設定となっています。


小谷 Scope1と2、SBTとは何でしょうか。


南室長 Scope1とは、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼など)、Scope2とは他社から供給された電気などの使用に伴う間接排出のことです。SBT(Science Based Targets)とは、科学的根拠に基づく温室効果ガスの排出量削減目標のための枠組みです。2100年の気温上昇幅を2.0℃を十分に下回る水準に抑える削減目標、さらに1.5℃目標を目指すことを推奨するというものです。

 

このSBT目標は義務ではありません。それにもかかわらず多くの企業がSBT目標の設定に取り組む背景としては、投資家からの気候変動対策に対する考え方やパリ協定との整合性、持続可能な企業であることをアピールできる点にあります。また取引先に対して、SBT目標はリスク意識の高い声に答えることになり、自社のビジネス展開におけるリスクの低減・機会の獲得につながることが挙げられます。そのため中長期的な視点を持った環境施策にSBTを取り入れている企業は、積極的に環境への取り組みを推進していると評価されます。


SBTとの整合を意識した取り組みを行うことで、例えば今後、取引先からSBT水準の要請があった場合や、将来的に当社グループがSBT認定取得にチャレンジする場合のベースになります。

すべての人が活躍する会社になるために

小谷 人権問題という言葉が意味することは非常に範囲が広いように感じますが、どのようなことを差しているのでしょうか。

 

片本課長 「人間が生まれながらに持っている人間らしく生きるための権利」言い換えると「みんなが幸せに生きるための権利」それが人権です。「人権」は決して難しいものではなく、個人の多様性を尊重し、侵害や差別をしないこと、お互いを尊重し、互いに思いやりの心を持つ、そういったことで守ることができるとても身近で大切なものです。


小谷 企業はなぜ人権に取り組む必要があるのですか。

 

南室長 人権は、人間の尊厳に基づいて各人が持っている幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利です。一人ひとりが人権を守る意識を持つことによって、自分の人権だけではなく、他の人の人権も守ることができるのです。企業には、社会の良き一員として、その企業活動において「社会的責任」を果たすことが求められており、企業の持続可能な活動のために欠かせない要件となっています。また、企業活動における人権の尊重は、社会的に求められる責務であるだけでなく、社会からの信頼を高めることにもつながります。


小谷 ダイバーシティとは、どのような意味ですか。


片本課長 ダイバーシティとは直訳すると「多様性」で形や性質がさまざまであることを意味します。価値観や生活スタイル、人々の多様性を尊重し認め合うということです。


豊田室長 ダイバーシティには、人と働き方の二つの側面があると思います。人の側面では、さまざまな個性・背景を持つ社員一人ひとりが、個性を活かしながら安心して活躍できる組織づくりや社内風土の醸成が求められます。そのためには、それぞれの強みを伸ばしていけるような仕組みや現場のマネジメントに工夫が必要になるのではないでしょうか。多様な存在を認め、相互の理解と尊重を前提に、一体となって取り組むことが重要です。働き方の側面では、テレワークや顧客とのリモートでの打ち合わせなど、ワークスタイルも多様化していますので、働きやすい環境整備がますます不可欠になると思います。


片本課長 人と働き方がうまくかみ合うと、一人ひとりが活躍する会社に近づくのではないでしょうか。それが、会社が持続的に成長していく原動力になりますし、働きやすい職場の整備とともに、「お互いさま」と言い合えるような環境も大切です。例えば、柔軟に対応できるようなチームづくりや、属人化されて対応できないといったことにならないよう業務の在り方を日々見直すことも重要になると思います。

自社だけではなくサプライチェーン全体で推進する

小谷 サプライチェーンマネジメントの重要性が増しているというお話でしたが、具体的にどのようなことですか。


南室長 サステナビリティの観点では、自社のみでなく、サプライヤーも含めて気候変動、人権、労働環境などのESG諸問題への取り組みを評価されます。ESGで先行する欧米諸国などでは、サプライヤーに求める要求が強く、SDGsに関連する社会的責任を怠っていたために取引中止に追い込まれるケースもあると聞きます。


企業の責任範囲をサプライチェーン全体と捉える国際潮流がありますので、取引先から調達に関する問い合わせが入ることが増えるでしょうし、投資家もサプライチェーンマネジメントを重視するようになっています。


吉川室長 企業活動がグローバルに展開され、社会問題が調達にも影響を及ぼすようになってきています。そのためサプライチェーン全体で持続可能なモノづくりへシフトしています。例えば環境の観点から持続可能な原材料の使用が期待されており、企業にとっては持続可能な原材料を使用することが安定調達につながります。そうした取り組みはステークホルダーからも評価されると思います。


横山部長 環境に配慮した製品の購入や、ISO14001を取得しているサプライヤーからの購入など、グリーン調達も注目を集めています。ダイワボウ情報システム(DIS)では、環境負荷低減につながる製品やサービスを日々の営業活動を通じて、お客さまに推奨・提案することにより、環境配慮商品の普及に日々努めています。また電子商取引システムiDATEN(韋駄天)上で環境に配慮したIT関連商品の検索性を向上させることにより、環境配慮商品の普及に努める活動も行っています。


吉川室長 サステナビリティ調達も注目されています。サプライヤーに対して環境、人権、労働安全などの基準を提示し、それらを遵守するよう要請する動きも強まっていると聞きます。具体的には人権の観点で人権侵害や差別の禁止、労働の観点では賃金の支払いなどの法令順守です。こういったサプライチェーンマネジメントは事業が安定的に継続するためのカギとなり、さまざまなステークホルダーが関心を持つでしょう。


小谷 社内に向けた啓蒙活動について教えてください。


横山部長 DISでは、ホームページの「環境・社会活動」ページを「サステナビリティ」へリニューアルしました。「ダイワボウグループサステナビリティ」や「CO2排出総量削減目標」などに加えて、三つの基本的な考え方のリンクを貼るなど、ホールディングスと連動した内容になっていますので、社員も含めて皆さまにご確認いただけたらと思います。


吉川室長 大和紡績ではホームページ全体をリニューアルしました。サステナビリティページの開示情報を拡充し、従業員の皆さま、取引先を含めて大和紡績の取り組みをより一層、知っていただく機会になればと思っています。


豊田室長 オーエム製作所ではホームページにESGページを設け、オーエム製作所グループのESG経営方針を開示しています。ESG活動のスローガンの「人にやさしく 地球にやさしい 未来のために」をトップページに設け、オーエム製作所グループのMISSIONを掲げています。またこの度目標設定されたCO2排出総量削減目標も確認できるようにしていますので、取引先、社員の皆さまにご確認いただければと思います。


小谷 三つの考え方をどのように運用していくのでしょうか。


南室長 まず今期は考え方を開示しましたが、リスクの評価方法や実施体制等については、来期以降に事業会社およびホールディングス関係各部署と連携して検討を進めていきます。