社外取締役に就任された吉丸由紀子氏は、かつて日産自動車でダイバーシティディベロップメントオフィス室長を務めた際ダイバーシティの真の意味を追究し、「イノベーションの原動力」という一つの結論に辿り着いたといいます。そしてダイワボウグループの持続的成長にも、ダイバーシティを「梃子(てこ)」としたイノベーションが必要であると強調しています。その重要性について吉丸取締役に話を聞きました。

ダイワボウホールディングス
社外取締役
吉丸 由紀子

まずは「モノカルチャー」から脱却する

吉丸取締役は1982年に沖電気工業へ入社し、当時はどの企業でも女性の活躍の場が決して開かれていたとは言えない状況でしたが、上司に恵まれ33歳で課長に昇進、その後は北米現地法人取締役やニューヨークオフィス所長を務めました。さらに外資系の人事戦略コンサルティング会社や日系総合商社の欧州現地法人、日産自動車などを経て、現在は積水ハウスと三井化学で社外取締役を務めています。ダイワボウホールディングスの社外取締役に就任した吉丸取締役は、自身の役割について次のように述べています。


「独立社外取締役としての私の役割は少数株主や投資家をはじめダイワボウグループのステークホルダーの代表として、取締役会の意思決定や議論が持続的成長・企業価値向上につながるのかを考えながら、課題に対し説明が足りない部分があれば問い掛け、中長期の経営戦略への議論に参画することで、持続的な成長の実現に向けた支援をすることです」


持続的な成長を実現するために重要となるのが「ダイバーシティ・マネジメント」の実践だと吉丸取締役は指摘しています。ダイバーシティについて「一般に女性の活躍や男女均等といった性別の問題を連想しがちですが、ダイバーシティ(多様性)とはかつて多くの日本企業の特徴であった「モノカルチャー」から脱却し、いわゆる「異分子」を取入れ活かすことで、多角的に物事を見たり、理解したり、議論・行動することを意味します」と説明しています。

 

日本は島国で移民も少なく、企業では主に男性が活躍し、企業では新卒終身雇用が続けられてきました。独自の文化を守ることは決して悪いことではありませんが、ビジネスにおいてはこれまでの固定概念や常識では、もはやグローバル競争に勝ち残っていくことはできません。

イノベーションにはリスクも伴う

企業におけるダイバーシティの実践、すなわちダイバーシティ・マネジメントについて吉丸取締役は「ダイバーシティを物質の化学反応に置き換えてみてください。単一物質では何も起こりませんが、異なる複数の物質が働きかけ合うと化学反応が生じて新たな物質が生まれたり、新たな現象が生じたりします。これがダイバーシティの必要性と効果なのです」と説明しています。

 

そして「化学反応が生じるということは異なる物質の分子が衝突していることです。化学反応で生じる効果を期待するならば、組織には異分子を受け入れる体制や心構えが必要です」と指摘します。イノベーションが起こる確率は価値観が多様化するほど高まるともいわれています。一方で価値観が多様化するほどある意味で「統制」は取りにくくなり、失敗リスクは高まります。


しかし現在のビジネスの環境は、過去の成功体験の延長線で手堅くビジネスを続けることを許してくれません。企業としてはリスクを想定した構えが必要です。吉丸取締役は「挑戦に伴う一定の失敗を受入れる覚悟・準備をすると同時に、問題の発生を未然に防ぎ、失敗を検証して再発防止をし、失敗から学ぶ仕組みが必要です。これは一つの「ガバナンス」です。イノベーションを成功に導くにはダイバーシティとガバナンスの両輪で取り組む必要があります」と強調しています。

ICTを活用して「見える化」を進める

ダイバーシティを起点としたイノベーションに必要なガバナンスとは、どのような取り組みなのでしょうか。吉丸取締役はそのキーワードとして「見える化」を挙げています。例えば熟練した職人が長年の経験で体得した独自の感覚で成し得ていた仕事を数値化・明文化すれば、誰もが再現できるようになります。またその仕事を改善してさらに良い仕事にすることも可能です。この数値化・明文化は単にデータというだけではなく、物事を明確にすることも意味しています。吉丸取締役は業務システムワークフローを例に挙げて、次のように説明しています。


「業務ワークフローにおいて、最終的な意思決定者は誰なのか、監査はどのようになされるか、複数の経由者がいる場合、それぞれの役割や責任は何か、承認者が承認したり差し戻したりする際の判断基準や理由は何なのかなど、明確になっているでしょうか。仕事において「なんとなく」「過去の踏襲」や「あうんの呼吸」、「忖度」といった目に見えない、説明ができないなどの不明確な部分が問題や失敗の原因になります。不明確・曖昧な部分があると失敗や問題を検証して改善することも難しくなります。ノウハウの数値化だけではなく業務システム、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)によるプロセスの見える化・明確化も重要です」


見える化は問題や失敗への対処や対策というネガティブ要素を減らす使い方だけではなく、お互いの仕事が見えていれば上司からの指導・支援は勿論のこと、メンバー同士で助け合えたり、異なる仕事を組み合わせて新しい成果を導き出したりするなどポジティブな使い方もでき、組織力・業績の向上に直結します。


最後に吉丸取締役はグループのさらなる成長について「ダイワボウグループの経営陣、社員には実行力があり、決めたことをきっちり実行する社風と人材が揃っていると感じています。これからの持続的成長を目指して、一緒に活発な議論を進めていきたいですね」と今後の意欲を述べました。