ダイワボウホールディングスで代表取締役 専務取締役を務めた有地邦彦氏が、今年4月1日に大和紡績 代表取締役社長に就任しました。大和紡績に新卒で入社し、国内外でメーカーの仕事を多角的に経験してきた有地社長は、同社が時代の変化に対応する過程に立ち会ってきたといいます。そしてこれからは、同社が未来に向けて成長し続けるために会社を変えていくことが、自身の使命であると意気込みを語りました。

大和紡績 代表取締役社長
有地 邦彦

メーカーのビジネスを幅広く経験した

1987年に大和紡績に入社した当時、新入社員研修を受けるために福井工場を訪れた際、「ずいぶんと歴史のある会社に入社したんだな」という第一印象を受けました。そのとき目に映ったのは、綿紡で日本の産業の発展と経済成長を支えた往年の歴史が深く刻まれた工場の建物でした。


経験した仕事は、この第一印象とは真逆の、時代の変化に応じて進化する挑戦の数々でした。長年にわたり営業部門にて、海外勤務も経験しました。その間に大和紡績は素材を多様化するとともに、製品も糸やテキスタイルからアパレルへと川下に広げていくなど、時代の変化に応じて自社の技術力や強みを生かせる領域へと事業を柔軟に対応させていきました。


有地社長は「扱う製品が拡大していく過程を経験しましたし、そうした中でお客さまも幅広くなり売り方も変わるなど、さまざまな経験をすることができました」と当時を振り返ります。そしてビジネスがグローバル化時代を迎えると会社は海外進出にも力を入れるようになりました。海外勤務経験からインドネシアや中国への生産拠点の進出や、米国での製品の販売などにも携わりました。

 

インドネシアでは工場を建設したり、現地で人材を雇用したり、新しいパートナーを探したりと、「ものづくり」から「売る」までのメーカービジネスのさまざまな仕事を経験しました。「時代の変化とともに会社が変わっていく過程に立ち会わせてもらい、会社と自分の成長も実感できました」と会社への感謝を述べています。

次の成長に向けて技術・開発部門を再編成

大和紡績の特長について「チャレンジできる風土」を挙げ、「当社は現場の社員に仕事を任せてくれるので、責任も大きいですがやりがいがありました。また社内の別の部署の人たちも協力してくれるなど、仲間として連帯感を感じられて心強かったです。きちんと評価もしてくれますし、みんなが新しい仕事にチャレンジしようという雰囲気がありました。この当社の良さは今も変わっていないと思っています」と目を輝かせながら話します。

 

こうした大和紡績の良いところを今の若い世代の社員たちにも継承したいという強い思いがあります。しかし時代の変化とともに管理が体系的になり、メーカーの醍醐味を若い社員たちが実感しにくくなっていることも事実です。

 

これからの自身の役割について有地社長は「会社が成長を続けていくには、時代の変化に応じて中身を変えながら、新たな利益の源を見出し、新しい自社の強みを育てていかなければなりません」と語っています。その具体的な取り組みとして、当社グループの中期経営計画の位置づけである「持続的成長に向けた『ビジネスモデル変革』への挑戦期間」「ESG視点での事業を通じた社会課題解決への貢献」「未来を創る人材価値の最大化」という3つのテーマを示しています。


ビジネスモデル変革には「これまでの当社の歴史で培ってきた繊維に関する技術や製品のノウハウを生かして、これからの社会に貢献できる繊維(ファイバー)を軸とした新しい事業の柱を構築していく」取り組みを進めます。それを具現化するために研究開発部門を再編成しました。従来は各事業部門にそれぞれ個別に設置されていた研究開発部門を「技術・開発本部」として一つにまとめ、事業部門を横断的に研究開発して知見を広げる組織を構築しました。新しい技術・開発本部では直近の製品や素材の開発はもちろん、新規事業の創出に向けて新しい製品や素材の研究開発にも力を入れていきます。

 

そして「毎年多くの新入社員を迎えており、若い人たちからは新しいものを作りたいという意欲を感じています。こういう人たちが成果を出せる組織や仕組みを作り、そこから新しい成長の糧を見出していきたいと考えています」と強調しました。

社員が能力を発揮し安心して働くためのガバナンス強化

新しい事業展開を見据えた研究開発において、AIなどのICT活用も重視しています。これまではメーカーとして生産設備に多くを投資してきましたが、開発のスピードを上げる、開発の可能性を広げるといった目的でICTへの投資も必要です。また工場において手作業で行っている設備の稼働記録や生産量の集計、翌日の生産計画などをシステム化して得られるデータを、製造や販売の意思決定に生かしていくことも検討しています。

 

グループ会社のダイワボウ情報システム(DIS)の取り組み事例を参考にするなど、大和紡績のデジタル活用を効果的に推進することでビジネスモデル変革につなげていきたいと考えています。


ESGやSDGsの観点からの社会貢献への取り組みについては、廃棄時に生分解して環境への負荷を軽減する素材や、天然由来の合成繊維を採用するとともに、環境負荷を軽減する新たな素材や繊維の開発も続けます。製造工程においても環境負荷を減らしながら、エネルギーの消費を削減する技術を研究していきます。


人材価値の最大化については人事評価制度の見直しを進めます。有地社長は「若い世代が活躍できる制度を作って社内を活性化させることが課題です。すでに女性の管理職が増えていますが、今後も多様な人材が活躍できる制度を整えて、社員の皆さんの声に耳を傾けつつ、会社を変革していきます」と述べています。


多様な職種の人材が活躍するには評価制度の整備とともに、さまざまな状況で生じるリスクへの対策も必要です。有地社長は「ガバナンスやコンプライアンスと聞くと厳しいルールを連想しがちですが、あくまでも社員の皆さん一人ひとりが個々の能力を発揮できるようにするため、安心して効率よく仕事ができる環境を作るためにガバナンスを強化することが、コンプライアンス意識を醸成しステークホルダーの信頼獲得に資する」と語っています。


最後に「当社のすべての事業や製品に、全社員が関わっていることを実感できる事業体にしていきたい。そして社会に貢献できる製品を生み出し、その製品を通じて社員が社会に貢献していることを誇りに思える仕事ができる会社にしていきます」と述べました。