2024年5月、ダイワボウホールディングスは2030年の“あるべき姿”を示した中長期ビジョン『2030 VISION』を発表しました。また今期(2025年3月期)からスタートした中期経営計画の3ヵ年は、グループ体制を従来から大きく変えながら飛躍を目指す重要な挑戦期間となります。西村幸浩社長にグループの未来への展望について語ってもらいました。

ダイワボウホールディングス

代表取締役社長

西村幸浩

 

― 中期経営計画とあわせて発表された『2030 VISION』はどのような位置づけでしょうか。
 

当社は中期経営計画(2025 年3月期~2027 年3月期)とともに、2030 年に向けた中長期ビジョンとして『2030 VISION』を開示しました。

従来の3ヵ年をベースにした中期経営計画だけでなく、さらに先を見据えた構想を新たに策定したことがポイントです。

2024年3月に祖業である繊維事業が独立したことで、当社グループはこれまでにない転機を迎えています。そのため、過去からの延長線上ではない成長戦略が問われており、今後のグループの方向性について社内外のステークホルダーに広く発信する必要があると考えました。

特に将来的な事業ポートフォリオに対する考え方と、グループとして目指す業績のイメージを明示するという意味で『2030 VISION』は重要な役割を担っています。

 

― 2030年の“あるべき姿”について具体的なイメージを教えてください。
 

まず、当社グループの企業価値向上のための道筋、つまりエクイティストーリーとして「IT 分野を軸に新たな事業領域へ経営資源を投入し、バリューチェーンのさらなる発展につながるグループ体制を構築する」という方針を示しました。そして2030 年の“あるべき姿”として、社会に求められる事業モデルを創造する「なくてはならない企業グループ」になること、ディストリビューションを不動のコアに IT 市場全体をつなぐ「All-in-One Solution Company」になることを掲げています。

また2031 年3月期に連結営業利益500 億円を目指すという定量目標をあわせて発表しました。これはダイワボウホールディングスが発足した2010年3月期と比べて約10倍の成長を意味しており、その実現のためには新たな事業領域への進出がキーになります。

 

具体的には IT 分野におけるプロダクト、ディストリビューション、ソリューション、サービスという川上から川下までの一連のバリューチェーンを“つなぐ”ことで網羅するイメージです。当社グループが知見を持つ IT 市場の周辺分野、AI・DX 関連を含めた先進テクノロジー分野を中心に新たな事業領域を模索していきます。

あわせて、現在のダイワボウ情報システム(DIS)のビジネスモデルを主軸にした「ITディストリビューション」を引き続き絶対的なコアと位置づけ、さらに強化・深化していくために機能を拡充する方針です。

また産業機械事業については、直接的なIT 分野には当てはまりませんがテクノロジーを梃に成長を目指すという観点で共通しています。連結営業利益の目標達成に向けて、オーエム製作所はこれまで以上に付加価値の高い事業を推進する必要があると考えています。

そして、2030年までに当社グループの目指す体制を構築するためには、迅速な意思決定と視野を広げた投資が可能であるホールディングスの利点を活かすことが重要になります。また繊維事業の独立を経て、新たなグループ体制を目指す中で「ダイワボウホールディングス」という社名の変更についても検討の必要がでてくるでしょう。経営資源の有効活用によって各事業のポテンシャルを高めながら、新規領域の確立によりグループの成長を加速することで、連結営業利益500億円に到達できると確信しています。

 

 

― 中期経営計画のグループ方針や目標値について説明をお願いします。

 

2020年に私が社長に就任して以降で最初に策定した中期経営計画を第1フェーズとすると、今期から始動した中期経営計画は第2フェーズであり「事業ポートフォリオ変革による躍進期」と位置づけています。第1フェーズでは「将来にわたる発展を見据えた転換期」と銘打ち、実際に繊維事業の独立をはじめ、DISによる初のM&A 実行など、将来につながるグループの転換を図ることができました。今期からは事業ポートフォリオ変革による結果をしっかりと示すとともに、次のステップとして新規領域に挑戦していく期間となります。

計画の軸として3つのグループ基本方針を掲げており、1 点目は「ホールディングス体制での成長」です。事業会社において既存領域の見直しや再編に着手しながら、ホールディングスでは新たな事業への参入を探求していきます。相互に連携しながら役割を果たすことでグループ経営の効果を最大限発揮し、両輪での成長を目指します。


2 点目は「過去最高へのチャレンジ」です。2021 年3月期に達成した当社グループの過去最高業績の更新を旗印にして、組織単位・個人単位でそれぞれがベストパフォーマンスを発揮することをテーマに事業活動を力強く推進していきます。

 

3点目は「ステークホルダーエンゲージメントの向上」であり、すべてのステークホルダーとの信頼関係の強化を目指していきます。特に当社グループにとっては人材が最大の財産であるため、多様な個性や能力を持つ従業員の育成とエンゲージメントの向上が欠かせません。ウェルビーイング経営の推進によって一人ひとりが自身の可能性を引き出せる環境を整えます。

業績目標としては、2 年目にあたる2026 年3月期にITインフラ流通事業の需要が最大化する見込みのため、売上高1 兆500 億円、営業利益は350 億円を計画しています。最終年度の2027年3月期は需要反動減の影響を想定していますが、ベース部分の収益を拡大させることで売上高1兆円の大台を守り、営業利益の目標は330億円としました。予測される需要の変動を先読みしながら着実に計画達成を目指します。

そしてグループ経営指標としては、3ヵ年を通じてROE14%以上、ROIC12% 以上を目標値としました。当社は、収益力と資本効率の客観的な指標としてROEとROICを重視しています。各事業で経営指標に寄与するKPIを設定して改善状況をモニタリングしながら、中長期的な視点に立って資本コストや株価を意識した経営を根付かせていく必要があると考えています。

― これまでの中期経営計画から大きく変わったポイントはありますか。

 

当社グループが企業価値を高めていくためには、成長投資と株主還元のバランスが大切になります。また各事業で生み出した収益について、グループ全体で有効活用することで収益性の最大化を図ることが重要です。この観点から中期経営計画においてキャピタルアロケーション方針を開示しました。3ヵ年累計での資金の規模とそれをどのような用途に配分するか、というイメージを表しています。

これまでにないポイントは、経費の増加というとらえ方ではなく「戦略的費用」という表現で、100億円以上の人的資本投資、80億円以上のシステム投資を計画に盛り込んだこと、そして株主還元の指標として配当性向30%以上、総還元性向60%以上という方針を明確に示したことです。いずれも当社グループとしての強い意志を込めたメッセージとして発信しています。

 

またM&Aについても、対象とする事業領域や投資判断基準を初めて開示しました。『2030 VISION』の実現に向けて戦略的M&Aの議論は欠かせないため、既存事業との親和性などを考慮しながら、入念な調査と慎重な検討を重ねていきます。

そして開示内容の拡充とあわせて、ハイブリッド型の決算説明会の開催や個人投資家向けイベントへの積極的な出展など、従来以上にIR活動の強化に取り組んでいます。特に3ヵ年における IT 需要のピークと反動減、それが当社業績に与える影響については丁寧な説明が求められます。あわせて、需要による変動要因のみではなく、当社の事業規模や収益力が着実に向上していることをしっかりと訴求することが重要です。そのためにも株主・投資家の皆様から生の声を伺うことを重視しており、タッチポイントを増やして適切な情報開示と建設的な対話を心がけていきます。

 

― グループの未来に向けた考え方についてメッセージをお願いします。
 

『2030 VISION』の発表を経て、ステークホルダーの皆様からの当社グループに対する関心と期待の高まりを感じました。事業拡大による経済的な価値向上を果たすとともに、社会課題解決への貢献によって社会的な価値も高めていくことで皆様の信頼に応えていきたいと考えています。

これから新たな飛躍をする覚悟で変革に取り組むためには、ホールディングスと事業会社の連携を格段にレベルアップさせていくことが重要です。グループ間で経営指標に対する感度を高め、最適な事業ポートフォリオを追求していきます。

また組織体制がダイナミックに変化していく局面では、多様な価値観を受け入れる風土を醸成していくことも大切になるでしょう。パーパスを軸にしたグループ理念体系の浸透を図ることで、これまでに培ってきた強みや良い企業文化は残しながら、新しいアイデアや柔軟な発想が生み出される環境を整えていきます。

中期経営計画の達成はもちろん、2030年に向けたエクイティストーリーを具現化することで、その先にある当社グループが持続的に発展する未来を見据え、一丸となって挑戦していきます。